本記事は、ふくおか緑の党の会報紙53号に寄稿していただいたものを了承を得て転載しております。(追記:最高裁判所の判断は、「国の責任を認めず」と残念なものとなってしまいました。)
もしかすると、この原稿が皆様の目に触れるときには、すでに歴史的な瞬間が訪れているのかもしれません。
来る2022年6月17日、全国の原発事故被災者・避難者たちが進めてきた訴訟に対して、最高裁判所の判断が示されます。
多くの人々がそれまでの当たり前の平穏な日常を奪われた「あの日、あの時」。あれからもう11年余の月日が流れました。
この間、原発事故の被災者や全国各地の避難者たちは、全国30以上の裁判所で裁判闘争を続け、事故の記憶を容易く風化させてゆくこの社会に何度も打ちのめされながら、国や東京電力という巨大な存在と対峙してきました。
この一連の裁判のうち、福島県内の被災者を中心に約3600名の原告を擁する生業訴訟、千葉、群馬、愛媛の3つの避難者訴訟について、今回、最高裁の判断が示されます。
すでに最高裁は東京電力からの上告受理申立てを退けており、東京電力の責任(中間指針を超える賠償責任を負うこと)が確定しています。残された争点は国の責任の有無、その一点に絞られています。
安全神話を振り撒いて原子力政策を推し進め、国会事故調をして「規制の虜」と評する杜撰な規制によって、あの史上最大最悪の環境公害事件を惹き起こした国の責任について、最高裁判所がどのような判断を示すのか、全国の被災者・避難者たちが固唾を飲んでそのときを待っています。
このような最高裁の動向から目が離せない状況ではありますが、原発事故被災者・避難者たちのたたかいは遠く東京や福島だけの出来事ではありません。
福島第一原発事故後、ここ九州・沖縄には公式な数でも3000名を超える被災者が避難しています(2011年12月時点)が、そこに含まれない福島県外からの「自主」避難者が、数すら捕捉されず、無論一切の補償の埒外に置かれたまま、ここ九州・沖縄に数多く避難しています。
事故から3年半が経過した2014年9月、このような九州の避難者・移住者たちは、国と東京電力を相手取り、福岡地方裁判所に一斉提訴を行いました。福島原発事故被害救済九州訴訟(九州避難者訴訟)です。総勢54名の原告のうち約半数を福島県外からの避難者・移住者が占めるという全国的にも例のない訴訟です。
福岡地裁での口頭弁論は23回を数え、ほぼ毎回の口頭弁論で原告本人の意見陳述が行われました。福島第一原発事故によってそれまでの平穏な生活を失い、生業を失い、故郷を失い、大切な人たちとのつながりを失い、それでも大切な家族や子どものために避難を決断したこと。原告たちが絞り出す言葉の一つ一つが、加害者によって行われた被害の線引きが誤りであることを確信させるものでした。
2019年には支援団体『ふくQ(福島原発事故被害救済九州訴訟を支援する会)』が立ち上がり、それまで空席が目立っていた法廷も、原告本人尋問が実施されるころには大法廷から溢れるほどの支援者で埋まっていました。
こうして迎えた2020年6月24日の判決日。福岡地裁は、福島県内からの避難者については補償の上積みを認めたものの、人員や財源に限りがあることを理由に国の責任を否定し、福島県外から避難・移住してきた原告についてはいずれも避難に合理性がないとして全て切り捨てました。原告たちの多くは、この理不尽な福岡地裁判決に対して福岡高裁への控訴を決断しました。
また、原発事故から10年の節目にあたる2021年9月には、事故の風化と被害者の切り捨てを許さないことを合言葉に新たに4世帯7名(福島県4名、千葉県1名、東京都2名)の原告が第2陣訴訟を提起しました。
現在、九州避難者訴訟では、これまで原告団を率いてきた金本友孝さんから次の世代の金本暁さん(友孝さんの御子息で事故当時中学1年生)へと代表が引き継がれ、更に第2陣訴訟の木村雄一さん(長崎市高島町)が新たに共同代表に就任し、福岡高裁と福岡地裁の2つの裁判所でたたかいを続けています。
この全国の原発事故被災者・避難者たちの裁判を通じて国の責任を明らかにすること、そして今なお存在する広範な国土の汚染の実態を明らかにし、全ての被害者の権利を回復することは、ただ被災者・避難者に対する金銭的な補償の問題にとどまらず、汚染された自然環境の原状回復、汚染地域に暮らす人々への恒久対策、さらにはようやく小児甲状腺癌をめぐって始まったばかりの健康被害に対する補償等について、国の加害責任を明確にする重要な意味を持ちます。
何より、この11年余の間に切り捨てられてきた避難者たちの権利を回復することは、この社会の人間性を回復すること、そしてこの社会に暮らす私たち自身の人間性を回復することに他ならないと思えてなりません。
ぜひ全国の被災者・避難者たちの裁判を、そしてここ九州の避難者たちの裁判をご支援ください。
福島原発事故被害救済九州訴訟弁護団事務局長
弁護士 池 永 修
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