【寄稿】フランス緑の党の躍進について考えるー畑山敏夫さん(国際政治学者)
- 広報部
- 2020年10月1日
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【はじめに】
フランス緑の党(正式名称は「ヨーロッパ‐エコロジー・緑の党」、以下「緑の党」)は近年では低迷期であったが、2019年欧州議会選挙、2020年統一自治体選挙と、党勢を回復している。欧州議会選挙ではフランスだけでなく、多くのヨーロッパ諸国でエコロジー政党は伸張している。コロナで現地調査ができないので仮説であるが、緑の党が勢力を拡大している要因について考えてみよう。
【1. 2019年欧州議会選挙、2020年統一自治体選挙での「緑の波」】
2014年の欧州議会選挙ではEUを批判する勢力(=欧州懐疑派政党)が拡大したが、2019年の選挙では地球温暖化に関心が高まり、EU加盟国ではエコロジー政党が大きく伸張した。エコロジー政党の会派「欧州緑グループ・欧州自由連盟」は、9.32%の得票で74議席を獲得している(前回より22議席増)。フランスでも、緑の党が13.84%の得票で12議席を獲得している。2014年に比べて緑の党は議席を倍増させた。
2020年の統一自治体選挙でも緑の党の勢いは止まらず、「歴史的勝利」を収めた。首都パリでは社会党と組んで「赤緑市政」の再選を果たし、フランス第2の都市であるマルセイユをはじめリヨン、ボルドー、ストラスブール、ナント、ポワティエ、トゥール、グルノーブル、ブザンソンなどの大都市を含む自治体で緑の党の市長が誕生した。ストラスブールでは42.0%の得票で、与党「共和国前進」、社会党の候補を退けて38歳の女性市長が誕生し、大都市リヨンでも52.4%の得票で緑の党男性候補が圧勝している。結局、フランスの10大都市のうち6人が女性市長となった。
一時は泡沫政党扱いされることもあった緑の党の伸張は、どのように理解したらいいのか。以下では、①既成政党の低迷、②社会運動、特に気候変動問題をめぐる社会運動の活発化、③新しい政治的試みの効果という3点から説明してみよう。
【2. 既成政党の危機と政治の流動化】
戦後長らくフランス政治を支配してきた既成の保守と左翼の政党が危機を迎えている。特に、1980年代から保守政党と政権交代を繰り返してきたフランス社会党が存亡の危機を迎えている。左右の既成政党は「黄色いベスト運動」(※1)などの異議申し立てに直面し、有権者の信頼を失い、見放されつつある。
現在のフランスは大都市の「豊かなフランス」と「豊かさから取り残されたフランス」へと分断が進んでいるが、都市の豊かなフランスの有権者が既成政党、特に社会党に失望して緑の党へと向かい、地方在住者や労働者たちは左右のポピュリズム政党に向かう傾向がある。
【3. 気候変動の争点化-「グレタ現象」の影響】
京都議定書、パリ協定の締結と国際的取り組みは続いてきたが、一向に成果は上がらず、旱魃や豪雨、気温の上昇といった気候変動の現象が頻発している。気候変動問題に真剣に向き合わない政治に対して、市民の関心と危機感が高まり、それはスウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリの行動と発言によって「未来のための金曜行動」へと発展した(※2)。
その動きは、政治の領域で緑の党への支持として結実した。2019年の欧州議会選挙では気候変動問題が主要な争点になり、若者を中心に緑の党への支持は大幅に拡大した。
もちろん、環境問題だけでなく、ブラック・ライブズ・マター、MeTooなど世界で広がっている公正と正義を求める社会運動の影響も忘れてはならない。また、コロナ下のロックダウン生活が消費社会を見直すことを促し、グローバリズムからローカリズム、フードマイレージを意識した地産地消的消費といった人々の意識と行動が変化も指摘されている。
【4. 新しい選挙のかたち-緑の党と市民の協働に向けて】
近年、ヨーロッパでは「ミュニシパリズム」という自治体改革運動が注目されている(※3)。今回の統一自治体選挙では、フランス全土でミュニシパリズムにもとづく410の「市民コレクティブ」が誕生し、選挙を担った。市民コレクティブは、政党だけでなく社会運動、個人の参加によって候補者リストを作成する選挙運動である。
マルセイユでは「不服従のフランス」など5つの左派政党と5つの市民政治組織が「市民コレクティブ」を結成して選挙に臨んだが、フランス最大の労働組合「労働総同盟」も積極的に参加している。選挙では環境破壊や経済的格差、地域の治安と住環境の悪化といった課題を掲げ、「ばかになって政治を信じてみよう」というスローガンを発して、有権者の積極的政治参加を訴えている。
トゥールーズでは、候補者の1/3が市民コレクティブメンバー間のくじ引き、1/3はメンバー以外による推薦、1/3は立候補というユニークな候補者リストつくりをしている。
緑の党の市長が再選されたグルノーブルでは前回(2014年)の統一自治体選挙から市民コレクティブが結成され、候補者の半数を市民組織から、残り半数を政党から選んでいる。それは、組織的論理で行う選挙を変えたいという緑の党市長の考えであり、政治と政策の所有権を市民が持つことこそが政治という信念に基づいている。
【おわりに】
さて、フランス緑の党の「復活」という現象をいくつかの仮説で説明してみた。最後に、今回の統一自治体選挙では、民主主義と社会的再分配を通じた社会保障の充実といった課題の結合が勝利の要因であったと指摘されている。その点で日本の緑の党も、格差の縮小や社会保障の確保、雇用の改善といった20世紀的課題と地球環境問題という21世紀的課題を結合した新しい個人の生き方と社会のあり方を提示するインテリジェンスが求められている。山本太郎とグレタの主張を結合すると同時に、両者の本気度と発信力に学んだキャンペーンを展開することが必要である。
【脚注】
※1 「黄色いベスト運動」について知りたい人は、次の本をお勧めしたい。 - ele-king臨時増刊号『黄色いベスト運動‐エリート支配に立ち向かう普通の人々』(2019年、株式会社Pヴァイン)。
※2 グレタ・トゥンベリについては、ヴァレンティナ・キャメリニ『グレタの願い』(2020年、西村書店)に詳しいです。
※3 「ミュニシパリズム」については、次の本が安価で読みやすい。 - 岸本聡子『水道、再び公営化!-欧州、水の闘いから日本が学ぶこと』(集英社新書、2020年)

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