フランス地方選挙で起きた「緑の波」~自治体からの政治変革の可能性と希望~(後編)
- 広報部
- 2021年10月12日
- 読了時間: 5分
講師:岸本聡子さん(文・まとめ:編集部)

2月19日、『水道、再び公営化!』の著者であり、欧州を中心に起きている最新の運動「ミュニシパリズム(積極的地域主義/自治体主義)」を日本へ紹介している岸本聡子さんに講演していただきました。前回に続いて後編をお届けします。
「学校給食」を通じて包括的な施策を展開
さて、学校給食の話をしたいと思います。
まずフランスのムアン=サルトゥという人口1万人の小さな町ですが、1999年から有機の牛肉を給食に使うことから始めて、2012年には100%有機の給食を実現しています。そのうちの96%は地元で作られた野菜です。そして、その過程で「フードロス(捨てられる食物)」が80%減りました。自治体と農家が協力して、学校給食、高齢者施設、病院、市役所の食堂とかに食材を提供するというのはよくある話ですが、この町がおもしろいのは、かなりの面積の土地を「公有化」して、公務員として雇った農家が食料を作るという取り組みをしている点です。「調達」を超えて、かなり包括的で持続可能な食や教育へのアプローチが可能です。
次にレンヌ。21万人の都市ですが、ここが面白いのは、まず水道を「再公営化」した点です。水源は常に都市の外にあって、そこには農地や自然の森などがあります。公営の水道供給者として、水源地の環境を保全し、その近郊の農業を持続可能なものに変えていくという取り組みを行いました。持続可能な方法で生産された地場農産物であることを示す認定ラベルを作って、学校給食だけでなく、スーパーマーケットとか地元の流通に対しても踏み込んだ点がレンヌの面白さです。
「バルセロナ・コモンズ」-持続可能な都市への挑戦
スペインに移ります。
先ほど「グルノーブル・コモンズ」(前号参照)を紹介しましたが、バルセロナでも2015年の地方選挙で、市民がゼロから-政党がまったく関わらずに-「バルセロナ・コモンズ」という市民プラットフォームを作って選挙に勝ち、初めての女性市長-アダ・コラール市長が誕生しました。「歩行者・自転車中心の都市計画」「大気汚染」「オーバーツーリズム(過剰な観光)」「住居の権利、空きアパートの買収(市が買収して住宅がない人の住む権利を守る)」「シングルマザーの保育支援」「歯医者さんや葬儀サービス(民間のサービスを購入できない人のために市が利益なしで提供するサービス)」などに取り組んでいます。
気候変動問題を考えると「エネルギー地域主権」がとても重要だと思います。バルセロナは2017年に「Barcelona Energia(バルセロナ・エナヒア)」という市立の電力供給会社を作りました。市が全部独占的にやるというのはヨーロッパのルール上できないのですが、市が作った供給会社は市庁舎、図書館などすべての市の建物、街灯や信号など、市が使わなければいけない電力に関しては供給しています。以前は多国籍企業の電力会社に毎年43億円払っていましたが、合計1億6000万円ほどの節約となりました。
もうひとつ「Super blocks(スーパーブロック)」も非常に面白いと思っています。今までの都市は基本的に駐車場と車がほとんど占有している状態だと思うんですけども、これを歩行者・生活者の空間に変えていくという取り組みで、2016年から始まりました。車は禁止ではないんですが、かなり車が通りにくい状態になっていて、その結果、子どもやすべての住んでいる人たちが、ごはんを食べたり、座ったり-ベンチやテーブルをたくさん作っています、それから緑化ですね-緑になったり、人と人とが出会う場所、子どもたちが遊ぶプレイグラウンドがあったり、そういった「スーパーブロック」がいま9個できています。あと10年で500ブロックにするというのが市の計画です。最初は反対した人たちも多かったのですが、参加型のプロセスを作って住民たちと話しあい、実際にやってみると、非常に楽しいし、気持ちがいいし、空気がきれいになったし、騒音が無くなったし、実感として「いいね」というのがどんどん広がっていきました。
南米でも拡がるミュニシパリズム
こちらはブエノスアイレス県のモレノ市の初めての女性市長で、40代前半の若い市長です。以前は地域・文化・青年・貧困支援活動にNPOとして長らく取り組んでいまして、アルゼンチンの対抗運動である「エビータ」運動に関わりながら、2019年に市長になりました。
まず地方の行政サービス、住民サービスを全面的に見直しました。かなり複雑にアウトソース(外注)されていたり、いろいろな契約が結ばれていたりすることが多くて、かなり不透明な状態になっていましたが、精査した結果、地方税の徴収、ごみの回収、駐車場の管理を「再公営化」しました。今まで長年の民間契約で縛られてきたことを考えると、小さな「再公営化」の積み重ねというのは、市行政の統一的な動力を高めていく、政策の調整能力を高めていくという役割もあります。それから当然、労働者を守るということですね。市が直接雇用することによって、給与や年金、労働環境について、安定ある仕事を地元に供給することができるという、労働政策にも大きく関わるわけです。
最後に「アグロエコロジー農園」を紹介します。近代的農業と対局にある、小規模・循環型で持続可能な農業を「アグロエコロジー」と言います。市内に利用されていない個人所有の土地がたくさんあったのですが、所有者と交渉して農園に変えていきました。現在、75ヘクタールと15ヘクタールの2か所作っています。食べ物にアクセスできない家族に対して、農園でできた食料を安く提供するという、社会的な課題と環境的な課題を融合させた政策となっています。
これで発表を終わります。不定期連載ですが、「マガジン9」というウェブサイトで詳しく書いていますので、ご興味のある方はご覧ください。ありがとうございました。
◆岸本聡子さんプロフィール
2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。現在、ベルギー在住。経済的公正プログラムの研究員。公営水道サービスの改革と民主化、公共サービスの再公営化、公共財の民主的な公的所有の政策研究や支援活動をする。
Comments