フランス地方選挙で起きた「緑の波」~自治体からの政治変革の可能性と希望~(前編)
- 広報部
- 2021年10月5日
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講師:岸本聡子さん(文・まとめ:編集部)

2月19日、『水道、再び公営化! 欧州・水の闘いから日本が学ぶこと』の著者・岸本聡子さんにオンラインで講演していただきました。岸本さんは、欧州を中心に起きている最新の運動「ミュニシパリズム(積極的地域主義/自治体主義)」について、「マガジン9」のホームページで「ヨーロッパ・希望のポリティクスレポート」を連載中です。前編と後編の2回に分けて、岸本さんの承諾を得たうえで、講演内容の要旨を掲載します。
緑の波の背景にある「ミュニシパリズム」
去年6月末、地方選挙の第二回の決戦選挙が行われ、10の大都市のうちパリも含め4都市で緑の市長が誕生した。それからパリ、マルセイユ、リヨンといった大都市で革新勢力が多数派になった。これは緑の党が筆頭の場合も、社会党との連合ということもある。緑と赤の連合-社会正義と環境的な課題を融合させていくような連合-というものが各地にでき、それで選挙で闘い、圧勝だった。マクロン政権に対する反旗、地方からの大きな抵抗という形として表れた。また、パリも含めて10の大都市の5都市で女性の市長が誕生したことも非常に大きい。
この裏舞台を少し見ると、1~2年ぐらい前からヨーロッパ各地で、地方自治を大切にする住民の運動として「ミュニシパリズム」というものが大きくなっていた。全国で408の地域グループが作られ、「参加型の候補者リスト」というものを作って自分たちの候補者を出すということをした。政党員ではない人も含めてリストに入れていった。「参加型の選挙/政治」というものがここから始まっていた。この動きをフランスでは「市民コレクティブ」と言う。コレクティブというのは「一緒に」「協働で」という意味だ。この「市民コレクティブ」または「市民プラットフォーム」というものを作り、政党も関わりながらこの選挙戦を闘った。政党そのものが勝ったというよりも、市民プラットフォームとして闘って勝ったことが重要だ。
そこで大切にされたのが「ミュニシパリズム」という考え(規範や価値、実践)だ。「利潤と市場の法則よりも市民を優先する共通の規範」、「社会的権利の実現のために、政治課題の優先順位を決めること」、「新自由主義を脱却して公益とコモンズの価値を中心に置くこと」……ハッキリと言葉になっているわけではないが、「ミュニシパリズム」「ミュニシパリスト運動」の中で、どこの地域でも共通して大切にされている考えだと思う。
このような規範で緩やかに繋がった運動で、結果的には1,324人のミュニシパリストを自認する候補者が今回の選挙で市議会に誕生した。そして408のコレクティブのうち、66が選挙で勝った。
緑(環境)だけでなく、社会正義・公正も
フランス第三の都市マルセイユでも市民コレクティブが勝ち、そのリーダーであった女性が市長になった。保守政治が何十年も続いたような「保守の牙城」である大都市でも、新しい緑と赤の市民連合が勝った。
この背景には、フランスで2018年に始まった「黄色いベスト運動」がある。気候変動問題が社会的・政治的に重要な課題になっており、特に若い人たちの支持があるが、緑の政治への移行にあたり「誰がその負担をすべきか」という社会的な議論がある。「社会不正義」をきちんと考えないと「緑の公正な移行」ができないという大きな教訓があると思う。
緑と社会正義を融合していく政治の具体例を挙げたい。グルノーブル市。16万人の小さな都市で、既に4年前の選挙で「グルノーブル・コモンズ」という市民コレクティブが勝利し、緑の市長が誕生していた。すでに4年間政権与党として自治体政治をやってきた実績から色々な成果が見えている。
例えば、市の予算の一部、投資予算の一部に関して住民が自分たちの提案で決めることができるという「参加型予算」という制度がある。住民の提案を募り、住民の投票で支持が多いものに関しては市行政の予算と職員をつけて実施する。これによって住民たちの優先順位が予算に反映され、例えば公立図書館を閉館しないとか、具体的な成果として表れている。
それから「公共調達」。自治体は、予算を使ってサービスや物を購入(調達)するという、非常に大きな力がある。何を買うかによって、地域経済がずいぶん変わってくる。例えば「学校給食」。給食を誰に作ってもらうか。グローバルサプライチェーンの末端の工場で作った給食を出すのか、地域で生産された野菜や食材を使って給食を作るのかということで全く違ってくる。
それから「ジャスト・トランジッション(公正な移行)」。いま気候変動問題で言われているのは、化石燃料中心の経済から再生可能エネルギーを中心とした社会に移行していかなくてはいけないという「グリーン・トランジッション」。それに対して、「ジャスト」は「公正な」という意味で、社会正義を伴った移行でないといけないという考えが「ジャスト・トランジション」だ。
そして「公共サービス」。グルノーブル市は水道を2000年の段階で、再公営化している。再公営化というのは、民営化したサービスを自治体の管理のもとに取り戻すという作業。グルノーブル市ではそれを先駆けて行い、具体的な成果が上がっている。
(続く。次回はスペインのバルセロナの事例などを紹介します。)
◆岸本聡子さんプロフィール
環境NGO A SEED JAPANを経て、2003年よりオランダ、アムステルダムを拠点とする「トランスナショナル研究所」(TNI)に所属。現在、ベルギー在住。経済的公正プログラムの研究員。公営水道サービスの改革と民主化、公共サービスの再公営化、公共財の民主的な公的所有の政策研究や支援活動をする。
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