2022年7月22日、原子力規制委員会は、審査会合により東京電力福島第一原発のALPS(多核種処理装置)の処理水海洋放出の安全性には問題が無いとして、事実上の合格を認めた。これによって、東電は地元自治体の合意を得た上で、放出設備の本格工事を始める方針で、来年春ごろの放出開始を目指し、既にその予備的な工事の着手を始めている。
しかし、この原子力規制委員会が審査してきた評価は、ALPSによる機能的な有効性や吸収排出に関するポンプなどの性能、異常時の放出停止の方法、さらには地震や津波などの対策を評価するという科学的評価や工学的な評価に過ぎない。
福島事故で溶けた炉心等(デブリ)を注水冷却し続けることで、各種の放射能が混ざり込んだ汚染水は、さらに侵入してくる地下水と混ざり合い、今現在も増え続けている状態にある。その汚染水をALPS処理で減容した「(ALPS)処理水等」が現在1,020基の巨大タンク(1基=1,300トン)に貯蔵されている。これからさらに増える分も含め、約32年間かければ近海へと全量放出ができるという無謀な計画が政府から東電へと実行されようとしているのだ。
問題は様々あるが、その核心はというと、福島事故によって膨大な量の放射能が排出されたにも拘らず、その膨大さを故意に隠ぺいするような取り扱いがされていることにある。
第一に、汚染水を海水で薄め、32年間以上という長い期間をかけて小分けの放出をすること。第二に、各年の被ばくが、放出され続ける処理水の海底土等への蓄積を考慮せず、その年ごとの放出放射能量のみで計算すればよいという解釈がなされていること。実際には、大多数の専門家が指摘するように、海底土や海藻等への移行・蓄積と海水への逆移行(フィードバック)の作用によって、放射能は年々蓄積されていく。また、魚介類をはじめとする生態系の中で濃縮されていくことは、実際に高濃度に汚染された魚の検出などで証明されている。そして、放射能汚染された魚介類等が人々の食卓に上がることになる。
故に、これまで一貫して、福島県漁連、宮城県、茨城県の漁連も「海洋放出には断固反対であり、タンク等による厳重な陸上保管を求める」と繰り返し表明してきた。2021年6月23日全国漁業協同組合連合会は、同じ主旨の特別決議を全会一致で採択、経産省、環境省へ要望書を提出し、結果、東電は「関係者の理解なしには処分をしない」と約束した。それにも拘らず、今回2022年7月の決定と工事の着手は、明らかに約束に違反する、被災地の信頼を裏切り、逆なでする行為である。
そもそも政府が福島事故の後、2011年6月23日に閣議決定した「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する支援の枠組みについて」の中で、原子力損害賠償機構は、原子力事業者(東電)に対して援助には上限を設けず何度でも援助し、原子力事業者(東電)を決して破綻させないように、設備投資等のために必要とする全ての金額を援助することにすると堂々と謳っている。では、石油備蓄などで実績を持つ「大型タンク貯留案」、アメリカなど海外で核施設などの汚染水処分で現実的な実績を有する「モルタル固化処分案」などのように、より安全に人が陸上監視できる別の方法が選択肢として挙げられているのだから、ここでは費用を度外視して検討しなければならないはずだ。そして、「無害化」できているとは言い難いALPS処理水を30年間以上も海洋放出して、世界的な環境破壊となる手段を取ることは真っ先に消去されなければならないはずだ。はたまた、東電という汚染企業が起こした失態の問題に、多額の国民の血税を投入しながら、一方で、国民を守るためのより安全な策が二の次にされ十分な検討さえもされないことに大いに理解に苦しみつつ、市民はパブリックコメントで反対を訴えてきたのだ。
問題点をまとめてみると、下記の4点がある。
1)何がどれくらい放出されるのか不明である(東電は基準超えを起こしている処理水については、順次二次処理を行い、放出前に測定するというが、放出期間は30年以上で、放出が終了するまでは、ALPS除去対象核種<62核種およびトリチウム、炭素14>の総量はわからない)。
2)主なる64核種以外の放射性物質の検証、放出前の測定核種選定は先送りにされている。
3)海洋放出が「リスク低減および最適化をはかるものである」ということが示されていない。
4)抜本的な止水対策を優先させるべきである(汚染水の漏出を減らすことが最優先)。
要するに、「海洋放出が急務」を正当化する根拠が無いのである。
故に、原子力規制委員会が、今回、安全性に関するお墨付きを出したとしてもそれは科学的工学的の評価に過ぎないのであるから、処理水の海洋放出という方法を即座に取ることはできない。処理水の海洋放出という方法には、さらに「その評価が妥当なのか」「社会的にも国際的にも合意が得られるのか」という側面から、全国民に対して十分な説明責任を果たすとともに、地球環境に対するすべての責任の所在を明らかにしつつ、次の段階に進む努力を怠ってはならないのである。
一方、2022年6月17日、最高裁は福島原発事故避難者訴訟において、被害者を切り捨てる判決を出した。それは、『東京電力福島第一原発の事故の原因は想定外の津波にあり、例えかつて指摘されていた対策が2011年までに施されていたとしても、この事故は防ぎようがなかった。』として、一切、【国の責任は認められない】とするものだった。司法さえもが被害者を切り捨てるこの国の「人権」「民主主義」はどうなっているのだろうか?
国民が、今、反対の声をあげなければ、そのしわ寄せは全て放射能の汚染水を放出された世界に生きることになる子どもたちに降りかかるのだ。そんなことは許されない。
福島第一原発事故に由来する汚染水~ALPS処理後の海洋放出に対して断固反対する!
ふくおか緑の党 運営委員 荒川謙一
※「ALPS処理水等」とは、ALPSによって放射性各種濃度(トリチウム以外)が国の基準値以下になるよう処理された「処理水」が32%、まだ基準値に満たさない分が68%を占めている液体(2022.6.9)のこと。
※「放射性核種」とは、原子核の種類で放射線を放出するものをいい、「人工で生成されたもの」と「自然を起源としたもの」があります。自然起源のものは、「地球形成過程で宇宙空間から地球に取り込まれた放射性核種」と「宇宙線によって自然に生成される放射性核種」に分けられます。人工でも自然起源でも放射性核種を含む物質のことを【放射性物質】といいます。
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